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「薬の話。キニーネ。」

大阪校の中島です。先日のブログデビューが「マンガ肉」ということで、大変失礼しました。今回はあらためて、お薬の話を。

その昔、私は西アフリカ、ガーナ共和国におりました。某ロッテのチョコレート?そう!それです。1993年から1995年にかけて、その後、2004年、2006年と渡航しております。ガーナはなんといいますか、私の祖国です。ですので「行ってきました」と表現するより「帰ってました」と表現するのが私の心情にぴったりきます。


写真1・ガーナ初渡航時1993年



さて、こんな話をすると日本の方々は、アフリカって危険じゃないの、と反応されるのですが、いやいや決して、そんなことはなく、穏やかな人々が暮らすとても美しい国です。とはいえ、発展途上国ですので、電気がない、水道がない、というのは日常のこと、熱帯ですので、いろんな病気にかかります。

私はマラリアという病気に何回かやられました。日本にも昔はあった病気です。日本ではマラリアの原因となるコンマ状菌、これはある種の蚊が媒介するのですが、この撲滅に成功しました。しかし、まだまだ撲滅できていない国々があります。

で、このマラリア、症状がなかなかのものでして、急な悪寒にはじまり、体温が一気に38℃を超えてきます。下痢、嘔吐の症状が一度におとずれ、その間にも体温は上昇し続けます。下痢と嘔吐の状態は感染者によって異なるようですが、私の場合は両方がいっぺんに。

洗面器をかかえながら、洋式便座に駆け込み、そのまま苦しい数十分をすごします。(おかげさまでガーナはイギリスに支配されていたので、トイレは洋式です。植民地支配には嫌悪を覚えますが、洗面器をかかえて和式トイレにしゃがみこむのはさずがにもたないので、イギリスに感謝したりして)


写真2・ガーナの便器・便座が黒いので当時はびっくりした記憶あり。


しかし、さすがに数十分もたつと「モノが出尽くす」ので、すさまじい嘔吐感とお腹がねじれきれるような腹痛を感じながら、ベッドに戻ります。マラリアにかかると、高熱の発熱のあと、一旦平熱にもどり、数日後に発熱というサイクルを繰り返します。これはマラリアのタイプによって異なり、ですので、体温を一時間おきにはかることで、どのタイプのマラリア原虫に感染したかが分かります。

39℃をすぎるころから、すこしずつ体温上昇のペースは遅くなり、40℃、40.5℃、41℃、41.2℃とピークを迎えます。人間の体温を42℃まで上げると、脳のタンパク質が変性(つまり、ゆでたまご化)し、死を迎えます。

で、41.2℃はどんな状態か。痛みや悪寒を感じなくなり、頭が非常にクリアになります。実際には体を動かすことも難しいのですが、なんでもこなせる自信が芽生えます。

野球でいうとアメリカのワールドシリーズでMVPとなり、国民栄誉賞をもらった松井選手のようなバッティング、サッカーでいうとイタリアのブフォンのような完璧な守備、テニスでいうと(これからだと期待していますが)錦織が頂点に上り詰めた状態、相撲でいうと…。

とにかく、神のようになります。実際には体を動かすことも苦しいので、神というよりホトケさまに近いのでしょうが。


写真3・1993当時のガーナの家、私の寝室



そして、病院に担ぎ込まれます。


海外での通院、入院の話は、またあらためてするとして、お話を続けます。実はガーナでのマラリア発症はまだお薬がある分、楽なのです。日本でマラリアが発症したらどうなるか。

2004年11月の終わりでした。私はガーナでの調査を終え、日本に帰国。報告書をまとめるために一週間ほど缶詰めになっていたときでした。急な発熱、悪寒。

来た。来てしまった、と思いました。マラリアの発症がついに。

そのころは奈良県にすんでいましたが、できるだけ大きな病院を電話帳でしらべました。夜中の発症でしたので、救急外来も考えましたが、その病院は官営、なのでパス。神になりかけていた私には、診察室のやりとりが予想できるのです。

そこで、比較的大手の病院、朝一番、受付に飛び込み、じっと待つ。その間に熱が下がってきました。三日熱マラリアの発熱パターンです。

診察室。

(医師)どうしました。
(私)発熱、ピーク時に41℃ほどありました。
(医師)今はどうですか。
(私)おかげさまで安定しています。
(医師)では、抗生剤を処方しておきましょう。
(私)抗生剤はおそらく効かないでしょう。(発熱チャートをみせ)実は私、ガーナから帰国しまして。
(医師)ガーナですか。
(私)おそらく、マラリアに感染しています。
(医師)マラリアですか。
(私)今は熱が下がっています。
(医師)さがっていますか。
(私)おそらく、明後日にふたたび発熱すると思います。
(医師)では、抗生剤を出しておきましょう。
(私)いえ、抗生剤は効かないと思います。
(医師)そんなことはないでしょう。
(私)先生、私の体力では次回の発熱がヤマです。
(医師)ですので、まずは休養を取って。抗生剤と点滴をしておきましょう。
(私)ありがとうございます。休養はとるべきですが、抗生剤は効きません。
(医師)といいますと。
(私)マラリアだからです。
(医師)はあ。
(私)おそらくあさって、ふたたび発熱します。そのときは先生に直接お電話してもよいですか。
(医師)ではそういうことで。抗生剤はきちんと服用してくださいね。
(私)次回の発熱時はよろしくお願いします。

帰宅。

(奥さま)どうだったあそこの病院
(私)対応がましだったよ。やっぱり民間やなぁ。
(奥さま)そう。じゃ、治療開始?
(私)いや、それが。結局分かってもらえなくて。あさって熱が出たら、お願いと言っておいたので、今日は寝ます。あさって悪いけど、車出してくれない。

二日後。電話。

(私)やはり発熱しました。いまのところ39℃なので、今から伺います。
(医師)分かりました。お待ちしています。

診察室。

(私)すみません。どこかマラリアの治療ができる病院を紹介してください。
(医師)あなた、大丈夫ですか。
(私)いや、実はかなりきついのです。
(医師)いったんこちらで休んでください。

20分後。

(医師)中島さーん。
(私)はい。
(医師)手間取ってすみません。奈良県内ではどこも対応できないということで…。
(私)奈良医大もだめですか。
(医師)はい。だめです。
(私)ではどうすれば。
(医師)はい。すでに手配しています。大阪に行ってください。
(私)分かりました。では、妻が車でまっておりますので。
(医師)いえ。まもなく、救急車が到着します。
(私)あの、妻が車で待っておりまして。
(医師)一刻を争います。はい、来ました。すぐ乗ってください。

結局、私はわざわざ外の車で待機してくれている奥さまと話す間もなく、救急車で大阪市立総合医療センターに直送されました。寝台に乗って阪神高速のランプウェイはスリルがありました。到着後すぐ「はい、中島さん、血をもらいますよ」といわれ、10分で結果が出ました。「やはりマラリアですね。」これにはおどろきました。ガーナより診断がはやい。「即入院ですね。」「はい。よろしくお願いします。」


写真4・マラリア治療薬…これが日本にあれば楽だった。薬剤名はメフロキン、キニーネより副作用が少なく、当時は耐性マラリアはまだ出現していなかった。



(医師)ではこれにサインしてください。
(私)はい。あれ?二枚もあるのですね。こちらは何ですか。
(医師)いやぁ。実はマラリアのお薬は日本では認可されていないのですよ。
(私)そうなんですか。
(医師)でね。これ、治療薬、去年インドネシアに行ったとき、個人的に買っておいたのです。
(私)そうなんですか。すみません。そんな貴重なものを。
(医師)いえ、費用は心配しないでください。でも、未認可薬剤を投与することはできませんので、「実験」という形にします。それでサインが必要です。
(私)なるほど。ぜひとも、よろしくお願いします。奈良ではどうなることかと。
(医師)ただ、すみませんね。キニーネなんですよ。まあ、効くとは思うのですが。

私の心中は「がーん」。キニーネ。もっとも初期のマラリア治療薬です。キナの木の樹液を煮詰めたもの。もともとはマラリア流行地の人がつかっていた民間薬です。

(私)クロロキンとかファンシダールはお持ちではないのですか。
(医師)あいにく、これしか手元になくて。若干副作用がきついと思いますが。

「がーん」。キニーネはアフリカでもほとんど処方されません。それは副作用が「若干」ではなく「相当きつい」からです。また、キニーネ耐性のマラリア原虫も多くなってきています。しかし、そんなことも言ってはおれず、先生には感謝するのみです。

(私)いやぁ。それでも助かります。よろしくお願いします。

その後の14日間はきつかったです。正確には最初の5日間がとくに。頭痛がひどく、水を飲んでもはいてしまいます。しかし、キニーネは絶大な効果をあらわしました。じょじょに頭痛はおさまり、食べ物も喉を通るようになってきました。運動は絶対だめだといわれていました(マラリアにかかると赤血球が破壊されるので重度の貧血になります)が、個人的にリハビリを開始、ナースセンターの横をすり抜けて、非常階段に。一日3回、階段15階分を上り下りします。(えっと、入院病棟は上の階にありますので、正確には下り上り)

そのとき、ナースセンター横でついつい聞いてしまいました。

「中島さん、ご飯をたべなさいと言ったら怒るんですよ。」
「○○さんもね。ちょっと口調が乱暴で」
「病気がそうさせるんだから、そう思って応対してあげて。」と上司の看護師さん。

本当にごめんなさい。頭痛がひどく、水も喉を通らず、吐き気がおさまらないとき、確かに私は「食べられへんって言うてるやん、しつこいな」と暴言を吐いていました。本当にごめんなさい。反省しております。でも、病気のせいだと思ってくださって、本当にありがとうございます。ありがとう。


抗マラリア薬は徐々に進歩しています。しかし、マラリア原虫も進化しています。薬物耐性を得て、薬に負けないマラリアに進化します。そして、それに対抗して新しい薬が開発されています。

ただ、残念ながら、マラリアが蔓延する国々は貧乏な国々です。高い薬が買えない人々が多いため、製薬会社はマラリア治療薬の開発をビジネスとしては敬遠してきました。これは仕方のないことです。でも、このブログを読んでくださっている皆さま。こんな話もありますよ、と知っていただければ幸いです。また、次回、お付き合いください。

2013/05/28写真追加

2013/05/27投   稿
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